ビジネスや産業における各業種でのIoTを導入した技術革新から、人口減少や環境などの社会問題解決まで、大きな意義を持つ技術として広く活用されているのが「センシング」だ。センシングは製造業を中心に、医療や看護、農業と幅広い分野へ導入されている。
将来的なICT技術と人間との共存に欠かせない、センシングの概要や種類、導入メリット、に加えてビジネスをふくめた各分野で導入されているセンシング技術について解説する。
センシングの言葉の意味や仕組み、種類を解説
センシングの言葉の意味や概要、仕組みについて解説する。
センシングとは
センシングとは対象物の音や光、温度などの物理的、化学的、生物学的特性の量を検出し情報を取得する技術を指す。
センシングという言葉は「感覚」や「感知」を意味する英語”sense”の現在形”sensing”に由来している。センシングは人間の五感で測定する情報を定量化できる技術であり、さらにセンシングをもちいれば電磁波や放射線量など人間の五感では測定できないものも定量化できる。
センシングによって対象物の質量や特性の量などをデータとして取得し可視化することで、検出した情報やデータを元にした定量化や、より付加価値の高い情報への転換などが可能となる。
IoTをはじめとしたICT技術が各分野へ急速に導入が実現されたのは、センシング技術の存在が背景にあったからこそといえるだろう。
センシングの仕組み
センシングは、センシングシステムと呼ばれる各装置をもちいて実行される。対象物を測定するときに使用されるのが「センサ」(またはセンサー)と呼ばれるデバイスだ。
センサは対象物の物理的、化学的、生物学的特性の量を測定するために設置される。センサによって測定された質量は、読み取り可能な信号に変換されたうえで、機器に表示される。
センサは用途に応じてさまざまな種類があり、働きによって検知器や感知器、測定器などと呼ばれている。五感による情報の定量化に使われているセンサには、以下のものがある。
・照度センサー、カメラなど…来客数、日照数など視覚情報の定量化
・マイクロフォン…音声入力など聴覚情報の定量化
・臭気センサー…アルコールや危険物質の検知など嗅覚情報の定量化
・味覚センサー…食品や衣料品開発など味覚情報の定量化
・圧力センサー、温度センサー…スイッチ、キーボードなど触覚情報の定量化
五感では検知できない情報の定量化には、以下のセンサが使われている。
・受信機(GPS・モバイル通信用電波) …位置の把握など電波情報の定量化
・磁気センサー(電子コンパス) …方角の把握など地磁気情報の定量化
・パーティクルカウンター(微粒子計)… 空気環境の測定など粒子や花粉量の定量化
・CO2センサー…二酸化炭素濃度の測定、農作物の成長促進など二酸化炭素情報の定量化
・ガイガーカウンター(放射線量計測器) …放射線環境の測定など放射能情報の定量化
センシングの種類
センシングは、センサによる測定方法や対象物とセンサとの距離によって「スマートセンシング」「リモートセンシング」の2種類に分けられる。
スマートセンシングとは、センサを対象物の近くに設置して測定や検知を行うセンシング技術だ。一般的にセンシングと呼ぶ場合、スマートセンシングを指すことが多い。スマートセンシングでは取得できる情報の幅が広く、かつスピーディに定量化ができるため、センシング技術として幅広い分野でもちいられている。
スマートセンシングにもちいられているセンサには、以下のものがある。
・アクティブ方式…測定対象に送った信号の反射を検出
・パッシブ方式…測定対象から測定信号を受信して検出
・インライン分析…測定対象物に直接接触したセンサが、検出、分析、記録、送信、監視を連続的に行う
・オンライン分析…サンプリング機器、センサ、およびプロセス分析機器を測定対象の近くに配置し、自動サンプリングと分析を常時実行
・オフライン分析…サンプルとして採取した対象物を、センサやサンプリング機器の元へ持ち込み検出
リモートセンシングとは、対象物に触れることなく情報の定量化を行うセンシング技術だ。人工衛星にセンサを搭載し、地球環境全体の定量化を行う衛生リモートセンシングが代表的だ。
リモートセンシングにもちいられるセンサには、以下のものがある。
・可視・近赤外リモートセンシング…地上の物体に当たり反射した太陽光の可視光線や近赤外線をとらえて観測する方法
・熱赤外リモートセンシング…太陽光によって温度の上がった地表の表面からの熱赤外線をとらえて観測する方法
・能動型マイクロ波センサ…衛星に載せられたセンサから発射したマイクロ波(電波)が、地表に当たった反射をとらえて観測する方法
・受動的マイクロ波センサ…地表面から自然に放射されているマイクロ波を観測する方法
センシングのメリット
センシング技術を取り入れることで得られる、多くのメリットを解説する。
現場や状況のリアルタイム可視化
センシング技術により、対象物の情報を常時取得できる。生産現場や環境の状況などをリアルタイムに可視化できるため、課題の検出や作業工程の調整による生産性の向上にもつながるだろう。
事前予測や検知による保安保全
センサは人間よりも高い精度で異常の検出が可能である。特定量が検出されることで、事前に事故や不具合の予測ができるのもセンシング技術のメリットだ。現場での産業事故を防ぐほかに、機器や設備に関してメンテナンスの適切なタイミングもわかる。
検出データによるコスト削減
センシング技術は人間の五感よりもはるかに高精度で情報を検知し定量化ができる。目視や触診だけでは検知できないレベルの異常検知もできるため、センシング技術を取り入れることにより製品の検品や検査のオートメーション化も実現可能だ。検品や検査にかかる人的なコストを大幅に削減できる。検知能力が高精度であることは、製品の生産品質の向上にもつながる。
センサによって検出されたデータからは、メンテナンスタイミングや消費エネルギー予測などの計画も立てられる。保守や保安のコストだけでなく、メンテナンス費用、消費エネルギー効率の見直しによるエネルギーコストのカットにもつながるだろう。
マーケティングへの活用
センシング技術は、マーケティングにも活用できる。たとえば店頭などに設置された電子公告(デジタルサイネージ)にセンシング技術を導入すると、時間帯、天候、来客数などの情報をセンサが検知し、取集したデータを元に最適化された広告を随時表示できる。環境、状況、顧客(ターゲット)への的確な訴求にもつながるだろう。
各分野で活用されるセンシング技術について
多くのメリットを持つセンシング技術は、汎用性が高いのも特徴だ。産業やビジネスだけでなく、医療や農業などあらゆる分野でセンシング技術が活用されている。各分野で活用されているセンシング技術について解説する。
製造業におけるセンシング技術
製造業では「インダストリー4.0」における、ICTやAI、IoT技術を導入した「スマートファクトリー」が推進されている。スマートファクトリーにおける生産プロセスの監視や設備の状態の把握管理、作業者の安全確保などには、センシング技術が導入されている。
機器やシステムなどのハード面での管理が行われるのはもちろん、作業者のバイタル情報をセンシングによってモニタリングすることで、ヒューマンエラーによる事故を防ぐのにも役立っている。
農業におけるセンシング技術
日本国内では、従事者の高齢化や後継者不足により、農業就職者不足や耕作放棄地の増加などが課題となっている。現在、センシング技術やIoT、AI、ロボットなどのICT技術を活用した「スマート農場」の整備をはじめ、日本の農業の課題解決をはかる取り組みが少しずつ進められている。
センシング技術によって農場や水田の温度、湿度、水分量、照度などを測定し、定量化が可能。農場や水田がセンシング技術によってつねにモニタリングできるため、自宅からでもアプリなどを通じて天候や状況などが確認できる。
多くの農地や水田がある場合でも、センシング技術を取り入れれば作業者がひとつひとつの状況を確認するために現地へおもむくことも不要だ。台風や豪雨による災害時、農場や水田を作業者が直接確認するために現地に向かう必要もなくなり、災害事故も防げるだろう。
センシング技術によって取得したデータは、農業における課題解決のヒントにもなる。たとえば作物の状態が悪いときには、日照時間や湿度、温度などのデータを参照することで原因や対策方法が得られる可能性が高い。
自動車業界におけるセンシング技術
自動車業界では、運転の安全面と環境面のふたつの面でセンシング技術がもちいられている。
トヨタ自動車の「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティセンス)」や本田技研工業の「Honda SENSING(ホンダセンシング)」など、センシング技術をもちいた安全運転支援システムでは、歩行者を検知し衝突被害軽減ブレーキを作動する、車線位置を検知しはみだした場合は警告が出る、などの機能を搭載。自動車の自動運転システムの開発にも、各部品を電子化または自動化し、制御システムを構築するためのセンシング技術がもちいられている。
環境面では燃費性能の向上やCO2排出の抑制のために、センシング技術がもちいられている。センサが温度や熱、光などを検知し、エネルギーの最適化を行う。環境面はもちろん、運転手や同乗者が車内で快適に過ごせるためにも、センシング技術が活用されている。
医療におけるセンシング技術
医療やヘルスケアにおいては、人間の生体情報(バイタルデータ)と行動情報を取得するためにセンシング技術がもちいられている。
・生体情報…心拍数、脳波、酸素飽和度、体温、血圧、血糖値など
・行動情報…姿勢、動作、位置や移動軌跡、日常生活の習慣など
センシング技術によって取得された患者の生体情報や行動情報は、医師などによる適切な治療や処置、提案につながる。また、患者の情報を常時モニタリングすることで在宅介護や看護の現場にも活用できる。
患者の生体情報や行動情報を常時モニタリングするセンサとして、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスが活用されている。また、埋め込み式デバイスの先進技術としてもちいられているのが、ペースメーカーへのセンシング技術だ。
従来のペースメーカーは患者の心臓が生み出す電気信号をモニタリングし、心拍の状態に応じて微弱な電気刺激を与えるなどして心拍のペースを調整する役割を持つ。ペースメーカーにセンシング技術を取り入れることで、よりペースメーカーを着用する患者に合った詳細な心拍のモニタリングが可能になった。
地球環境におけるセンシング技術
おもに衛星に搭載した専用センサによる衛生リモートセンシング技術は、地球全体のモニタリングを可能にしている。植物や地表、海面の温度、地表の高さ、雲や水の状態をセンシング技術によって測ることで、地球温暖化の状況やエルニーニョ現象、台風、洪水などの災害予測、天気予報、農場や魚場の予測などに役立つ。
防災やダムの貯水率、風水力発電による社会インフラ、CO2排出量やオゾン層の状態を把握することによる持続可能性への取り組みなどが実現可能だ。
ビジネスだけでなく社会生活にも重要なセンシング技術
センシングの概要やメリット、多分野で取り入れられているセンシング技術について解説した。センシング技術によって、可視化できない五感による情報や、五感でも検知できない情報が定量化できるようになった。
センシングといえば、産業や経済発展、生産性向上などのビジネス面で活用されているイメージがあるが、実際には人間の健康や防災、社会インフラ、地球環境などの多くの面で活用されている。今後も経済発展だけでなく、社会生活のうえでもセンシング技術は重要な役割を担って行くといえるだろう。
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