日本企業も加わるロシアの天然ガス開発事業「サハリン2」をめぐり、事業をロシア法人に移管する大統領令にプーチン大統領が署名しました。日本企業の権益が失われるおそれも指摘されていますが、今後の展開はどうなるのでしょうか。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)でロシアの資源経済をウォッチしてきた原田大輔調査課長は、ロシア政府の狙いは日本以外のところにもあると指摘します。
――6月30日に出された大統領令によれば、今後設立する新会社にサハリン2の事業を移管します。これまで参加していた日本企業が権益を維持したい場合、設立から1カ月以内に同意書を出さなければなりません。同意書を出しても、ロシア政府が承認しなければ事業が接収されるおそれがあります。そもそも、なぜ法律改正などでなく、大統領令なのでしょうか。
記事前半では大統領令が出された経緯や、その意外な狙いを解き明かします。後半では、ロシアに頼らないエネルギー供給が実現できるのかどうかについても考えます。
ロシアでは互いに矛盾する法律がある場合、その矛盾を是正するべく示された大統領令が法改正と同じ効力を持つという憲法裁判所の判例があります。
食い違う二つの法律
今回の大統領令発出の背景に、ロシア政府によって故意に二つの法律の間で矛盾を生じさせた動きがありました。一つは生産物分与契約(PSA)法という、エリツィン政権時代の1995年からある法律です。外国企業による資源採掘権と優先コスト回収を認め、ロシア政府が不条理に権益を接収することができないよう、外国企業の権利を守る内容となっています。サハリン2もその法律で守られたプロジェクトの一つです。
――もう一つの法律というのは?
こちらはPSA法より前の1992年から発効した地下資源法です。ロシア国内で石油や天然ガスなどを採掘する企業は、ロシア政府からライセンス(許認可)を受ける必要があります。ライセンスは法人のみが所有できることになっており、これまでは外国法人でもライセンスホルダーとなることが認められていました。しかし、今回の大統領令が出される直前の6月28日に改正され、今後はロシア法人だけがライセンスを保有することができることになりました。
サハリン2の運営会社は登記上、英領バミューダ諸島に置かれており、ロシアにとっては外国法人ということになります。
PSA法に従えば運営会社が外国法人であっても問題はありません。一方、改正地下資源法によれば、資源採掘のためのライセンス保有は外国法人には認められないことになりました。大統領令が出される直前に行われた地下資源法改正によって、同じ資源採掘という活動とその許認可において、一方は外国法人を認め、一方はロシア法人にのみ認めるという矛盾が生じる形が作り出されたのです。
ロシアでは、このようなケースでは大統領令がその矛盾を是正する統一的なルールとして効力を持つと考えられています。6月30日に出された大統領令では、PSA法で外国法人での活動が認められているサハリン2に対し、改正された地下資源法同様にロシア法人への移管を指示しています。
さらに、サハリン2に参画する外国企業がその指示に同意したとしても、最終的な判断はロシア政府が行うことになっています。つまり、外国企業の同意を承認せず、その権益を接収する可能性も示唆されているのです。
矛盾は意図的だった?
もしロシア政府が地下資源法を改正せず、ただ大統領令を出したのでは、ロシア連邦法のひとつであるPSA法で規定された内容を無視することになり、その解釈・方法に国内からも疑義を呈する声が出てくる可能性があります。
そこで、大統領令を出す直前…
からの記事と詳細 ( サハリン2接収、ロシアにメリットなし? 大統領令ににじむ本音とは [ウクライナ情勢] - 朝日新聞デジタル )
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