流通業界ではよく、SPAとか、製造小売業とかいった専門用語が飛び交っているのを、耳にする。「製造小売業だから、メーカー兼小売業かな?」と見当はつくのだが、「SPAや製造小売業とは何か」について、流通業界でなぜ、これほど注目されるようになったのかを含めて、確認してみよう。
そもそもSPAは1986年、世界的なファッション専門店である米ギャップの会長が、自社の業態を指していった「Speciality store retailer of Private label Apparel」、すなわち、「PBを販売するアパレル(既製服)の小売り専門店」の頭文字に由来するという(野村総合研究所による)。つまり、ファッション専門店業態の一種を、表す言葉だったのだ。
ところが、商品の企画から製造、販売までを垂直統合させる、ギャップのビジネスモデルが、サプライチェーンマネジメント(SCM)のムダを省き、顧客ニーズに即応できるということで、もてはやされた。そこで、ギャップのようなビジネスモデルが、 “SPA ”と呼ばれるように
なったのだ。
そうした経緯から、SPAは当初、ファッション業界で、ギャップと同じようなビジネスモデルのアパレル専門店を指していたのだが、現在では、ほかのカテゴリーの専門店でも、製販一貫型のビジネスモデルであれば、SPAと呼ばれるようになっている。
そして、日本では、SPAのビジネスモデルを端的に説明するとき、「製造小売業」という言葉が用いられるようになった。新聞や雑誌の経済記事では、今でも「SPA(製造小売業)」という表現が出てくることがあるので、注意してほしい。念のために言っておくが、製造小売業は、“SPA”=自社アパレルブランド専門店の 日本語訳 ではない。
では、SPAとは、どんなビジネスモデルなのか、詳しく見てみよう。SPAの条件としては、 “小売業” を営んでいることと、商品の企画生産・物流機能を自社で有していることの二つが挙げられる。
とはいえ、直営店を持たないSPAというのは見かけないが、実は、自社の生産設備や物流設備を保有しないSPAが極めて多い。これは、グローバル化しているSCMのトレンドで、「餅は餅屋に任せる」という考え方が普及しているため。製販を内製化することが可能だとしても、「販売は得意だけど、モノづくりは苦手」といったように、企業によって向き不向きがあるからだ。
それなら、苦手な部分を、得意な企業にアウトソーシングしたほうが合理的とい
うわけだ。例えば、エレクトロニクス業界で知られているのが「ファブレスメーカー」(工場=Fabがない=Lessという意味)で、 “メーカー” でありながら工場がなく、研究開発に特化している。
つまり、SPAも、ファブレスが主流というわけだ。ただし、自社の生産・物流設備がなくても、商品の原材料調達ルートやデザイン・仕様を決定したり、品質管理をしたり、ITで在庫管理をしたりして、 “メーカー” としての基幹機能は
保持しているのが、SPAの特徴と言えるだろう。
SPAのビジネスモデルがもてはやれているのは、企業にとって、さまざまなメリットがあるからだ。
最も大きいメリットが、サプライチェーンの利益を総取りできることだろう。SPAは、自社ブランドの商品を店舗に直送するので、基本的に卸売業を通すこと
はない。商社を通さずに商品の原材料を仕入れることも多い。中間流通のマージンが、ほぼ発生しないのだ。
そのため、利幅が大きく、その分、値下げ余力も大きいとも言える。
また、サプライチェーンを自社で管理するので、効率的に運営しやすい。消費者ニーズに合わせて、商品の価格、数量、投入する時期や市場を決めるので、最適な生産・販売計画が立てられる。
製販が一気通貫なので、リードタイムを短縮しやすいうえに、期中追加生産など、売れ行きに応じた機動的な生産調整もしやすい。チャンスロスを防げる一方で、在庫を抑えることもできるわけだ。
つまり、コストの適正化や引き下げもしやすい。そのほか、直営店という顧客とのインターフェースがあるので、販促やブランディングが容易に展開できる。一方で、生の顧客情報を、商品の企画生産にダイレクトにフィードバックすることも可能だ。
とはいえ、SPAもメリットばかりではない。デメリットもある。自社ですべての商品を生産、販売するということは、在庫リスクも、それだけ大きいという
こと。SCMがうまくいかなければ、損失をすべて自社で被ることになる。
また、商品の企画生産・物流・販売といった幅広いノウハウが必要で、それに見合う人材も、揃えなければならない。巨額の初期投資も、覚悟しなければならない。SPAを成功させるには、十分な資金やリソースが要求される。メリットが大きいからといって、安易にSPAに乗り出すと、痛い目を見ることになるだろう。
SPAで成功した企業の例としては、前述のギャップのほか、スペインのインディテックス(ZARAなどを運営)、スウェーデンのH&Mといったファストファッションの雄が挙げられる。
ファストファッションは、トレンドを素早くキャッチし、ニーズに適応した商品を供給することが求められるため、SPAが馴染みやすいのだろう。ファッション以外では、インテリアショップであるスウェーデンのイケアが、SPAと言える。
日本企業では、「ユニクロ」や「GU」を展開するファーストリテイリングが、SPAの代表選手と言える。また、ファッションだけでなく、インテリア、食料品まで展開する総合型のSPAとして、「無印良品」を育てた良品計画が世界的に名高い。
ところで、上記のように、主なSPAは小売業発祥、すなわち、流通の川下から上流に遡上したビジネスモデルと見なされているが、実は、メーカーや中間流通に起源があるSPAも少なくない。
その代表格が、日本の大手アパレル会社だ。その多くが、もともと衣料品のメー
カーや卸売業だったのだ。百貨店などに直営売場を設けるようになり、さらには、ショッピングモールや駅ビルなどに、自社ブランドの直営店もチェーン展開する形で成長した。
例えば、「タケオキクチ」などを展開するワールドは、もともと卸売業だったが、1990年代以降、SPA型の自社ブランドショップ事業を強化した。また、ユナイテッドアローズに出資し、経営を支援したことでも有名。2022年に傘下に収めた、子供服のSPAであるナルミヤ・インターナショナルも、かつては広島の呉服問屋だった。
SAP企業と言うと、一般には、SAPが主力事業である企業を指す。しかし、SPA事業を手がけている企業は、小売業や卸売業、メーカーを問わず、ことのほか多いのが実態だ。つまり、 広い意味でのSPA企業 は、数多く存在するのだ。
そうしたSPA事業のうち、小売業でポピュラーなのが「PB」。大手小売業であれば、PBを持たないほうが珍しいだろう。中には、納入メーカーに頼んで、ラベルだけを張り替えたような商品もないわけではない。しかし、現在ではブランドコンセプトを確立し、商品の企画生産にもコミットしているケースがメジャーと言えよう.
例えば、イオンは、グループ内にPB「トップバリュ」の開発専門企業であるイオントップバリュがあって、食料品のほか、衣料品やインテリアなどのPBを送り出している。「セレクトショップ御三家」と言われるビームス、シップス、ユナイテッドアローズでも、SPA型のPBは、大きな柱になっている。ファッション以外でも、インテリアのニトリ、ホームセンターのカインズは、売上げに占めるPB比率が高いことで知られる。
ちなみに、前述の良品計画は、西友のPB部門が独立した企業だ。大手小売業の多くは、差別化の武器として、PBに力を入れている。類似品に比べて値ごろ
感を訴求できるだけでなく、「ほかの小売店では手に入らない」という独自性を打ち出しやすいからだ。そうした意味では、オリジナル商品の源泉となるSPA事業は、今後も拡大すると見込まれ、流通業界におけるSPAのウエートは、高まっていくだろう。
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