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Sunday, July 26, 2020

人生100年クラブ:マネー編 厚生年金、パート加入拡大 メリット大きく、制度底支え - 毎日新聞

 <くらしナビ ライフスタイル>

 年金制度改革関連法が5月29日成立した。パートなど短時間労働者が厚生年金に加入しやすいよう要件を緩和することが大きな柱だ。これは、みんなの将来の年金額にどう関わってくるのだろうか。

 ●従業員50人超に

 公的年金制度は、1階が国民年金、2階が厚生年金の2階建てになっている。国民年金は自営業者ら、厚生年金は雇われて働く人の年金という位置づけだ。

 厚生年金には、従業員5人未満の個人事業所などを除き、70歳未満の人が加入する。ただし、短時間労働者は、労働時間がフルタイムの人の4分の3(週30時間)未満なら加入を除外する運用をしてきた。

 かつて短時間労働者は夫に扶養される専業主婦が中心だったため、問題はなかった。だが、1990年代以降、非正規で働く人が増え、状況は変わった。国民年金加入者(第1号被保険者)は短時間労働者ら非正規の人が40%を占め、自営業者らの24%を上回る。

 90年代に社会に出た就職氷河期世代は望まないのに非正規で働く人も多い。この世代は現在40代。老後資金を手当てするための残り時間は少ない。

 そこで加入要件の拡大が求められている。2016年には(1)労働時間週20時間以上(2)月収8万8000円以上(3)勤務期間が1年以上見込まれる(4)企業規模が従業員500人超――を満たす人(学生は除く)も対象にした。

 今回の改正はこれを広げた。勤務期間は22年10月から「2カ月超」に、企業規模は、22年10月から「100人超」、24年10月から「50人超」に広げる。約65万人が新たに加入する見通しだ。

 ●加入メリット三つ

 短時間労働者が厚生年金に加入できれば、三つのメリットがある。

 第一に、年金額が増える。国民年金だけでは満額でも月額約6万5000円と心もとないが、厚生年金は現役時代の収入に応じた報酬比例部分が上乗せされる。

 第二に、障害厚生年金や遺族厚生年金など、老後以外の保障も厚みを増す。

 第三に、医療のセーフティーネットが高まる。厚生年金は、健康保険(組合健保や協会けんぽなど)とセットになっており、けがや出産で仕事を休む場合、傷病手当金や出産手当金を受け取ることができる。国民年金とセットの国民健康保険にはない制度だ。

 月収8万8000円で働いている場合、国民年金加入者であれば、国民年金と国民健康保険の保険料を合わせて月約1万9100円支払っている。それが厚生年金に加入すると、厚生年金と健康保険の保険料は、半分が会社負担になるため、自己負担は同約1万2500円に減る。加入10年間で将来の年金額は月々約4600円増える。

 さらに重要なのは、個人のメリットばかりでなく、年金制度を底支えする効果だ。

 将来の年金水準は「所得代替率」で示される。40年間働いた夫と専業主婦の妻がそれぞれ65歳になったときの年金の合計額が、その時点の現役世代男性の平均手取り収入のどれくらいかを示す目安だ。

 19年の財政検証は6通りの前提で見通しを示した。経済や物価・賃金状況が好調な3ケースは19年の61・7%から約50%に低下、好調でない3ケースは50%を下回る。

 だが、厚生年金の加入要件を月収5万8000円以上のすべての労働者に広げれば、所得代替率は4・3~4・8ポイント押し上がる。短時間労働者が厚生年金に移り、財政の弱い国民年金の給付水準の低下を抑えられるためだ。

 つまり、要件拡大は年金制度を安定させ、みんなの年金の目減りを抑える。まさに「本命のプラン」なのだ。

 ●弱者を生むゆがみ

 ところが要件拡大はなかなか進まない。ネックは二つ。まず、保険料の半分を負担する中小企業に抵抗があること。そして、夫に扶養されながらパートで働く専業主婦に新たに保険料が発生することだ。パート主婦は「国民年金の第3号被保険者」として国民年金に加入するが、保険料は払っていない。

 今回の制度改革は、こうした点に配慮した結果、ごくわずかな要件拡大にとどまったのが実情だ。「50人超」企業は企業全体の3%程度で、所得代替率の押し上げ効果はわずか0・3ポイントしかない。

 厚生年金は本来、雇われて働く人が高齢で働けなくなったときの生活を保障するものだ。小さな企業だから、そこで働く人の老後は保障できないというのは理屈に合わない。また、社会保険は本来、保険料の負担と給付が対になって成り立つものだ。

 これらの原則に目をつぶり、労働者のなかで最も立場の弱いパートや非正規の人を枠外に追いやっている。制度が弱者を生むゆがみがある。

 ただし、加入要件を拡大する方向は明確になった。04年以降、年金問題は常に政治対立を招いてきたが、今回の改革法は、共産党を除く与野党の賛成で可決し、衆参両院では「加入要件を全企業に拡大することを速やかに検討する」と付帯決議をした。今後の年金改革はそのスピードをいかに上げるかにかかっている。【渡辺精一】

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July 27, 2020 at 12:01AM
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